おいでよあったかいから|「バカ好き」008-text

主人公の女性カップル(「バカ好き」)

  • 原案・原作 担当:ナカムラルパカ
  • 小説 担当:ナカムラルパカ
暗い部屋でクマのぬいぐるみがパソコンを見ている

◯月◯日
またばかなことしてふたりでいるのにひとりになった・・・

 

繰り返すくらいなら、しなければいいのに。

 

喧嘩をしていたはずが、

いつの間にかうやむやになってしまうのはもう何度目のことだろう。さっきまでの険悪な雰囲気はどこかに行ってしまった。私の腕にかかる彼女の重みに意識をやる。私達は確かについ数十分前まで喧嘩をしていたはずなのに、今は私の腕の中で彼女が眠っている。

小さく寝息を立てる彼女の頭を撫でながら、喧嘩の最中にきつく唇を噛み締めて震えていた彼女の姿を思い出す。
(彼女も怒っていたかな…私と同じように悲しかったかな…)

どうしてまたつまらないことで喧嘩になってしまったんだろう。今思い返せば喧嘩のきっかけは取るに足らないことだった。小さなイライラから始まって、彼女と言葉の応酬をしていくうちに飛び交う言葉はだんだんと強くなり、いつの間にか当初のイライラではなく喧嘩のためだけに生まれた言葉自体に腹が立ったり悲しくなったりしていった。

(私のことちゃんと大事にしてよ)
自分の相手に対する物言いは棚に上げて、彼女が私を大事にしてくれないような気がして、早く謝ってもらうことばかりを考えていた。私のほうこそ、その瞬間自分の気持ちでいっぱいになって彼女のことを大事にしていたとは言えないのに…寂しさや怒りに負けてモンスターのようになっていた。どうせあとで後悔するのに、なぜいつも喧嘩になってしまうのだろう。
相手の欲しい「ごめんね」を知っているはずなのに、早く仲直りがしたいと思っているはずなのに、なぜか自分だけが負けてしまう気がしてうまく言えない。お互いに意地を張り合ったまま解くことができず、ついには2人とも黙り込んでしまった。


都会の夜に街の灯り

「一緒に寝ようよ。」
あーもう、
わかったよ。

重たい空気に耐えきれず部屋を出た私の元に

彼女がやってきたのはそれからしばらく後のことだった。俯いたままの私の視界の片隅に、同じように少し俯いた彼女の姿が見えた。私の視線を感じてこちらを向きなおした彼女は目を真っ赤に腫らしていた。

「…ねえ、一緒に寝ようよ…」
「私まだ眠くない」
「でも私…は…眠い…」
「そう」

「…一人じゃ…眠れないから…お願いします一緒にきて?」
「……あーもう、わかったよ…さき行ってて」
ぶっきらぼうに答えたのは一緒に眠れる事を一瞬喜んでしまったのがバレたら困るから。


少し遅れて寝室に行くと彼女はすでにベッドの中にいた。

壁に向かって横になる彼女に背を向けるようにベッドに潜り込む。背中がほんの少し触れるか触れないかの位置で、彼女のほうからふんわりと流れてくる温かい空気を感じる。バカなことでイラッとして喧嘩なんかしていなければ、今頃この温かさは私の腕の中にあったかもしれないのに…そんなことを思いつつもまだ、彼女がどうにかこの喧嘩を終わらせてくれないかなんて考えていた。

「ギュッてして…」

彼女が無愛想っぽく言う小さな声が聞こえた。私の心の声が漏れているのだろうか、欲しかったものが向こうから飛び込んでくるなんて。
私は彼女にお願いされたから仕方ないという風にして彼女を後ろから抱きしめた。

(温かい…)

喧嘩の瞬間は大事な気がした自分の主張も、売りことばも買いことばも、この温かさの前にはどうでもいいことなのかもしれない。

(少しすっきりしないけど…)

しばらくすると小さく寝息が聞こえてきたような気がしたので彼女の頭をゆっくりと撫でた。撫でながら心の中でちいさく「ごめんね」と言ってみた。すると彼女はくるりとこちらを向いて私の胸に顔をうずめるようにして抱きついてきた。

そして…

夜の部屋に白いシーツ

さっきはごめんなさい

彼女は私にしがみつく手にぎゅっと力を込めながら

「ねえ…さっきはごめんなさい…」

…そう言った。

パジャマの厚い生地に吸い込まれてずいぶん小さな声だったけど、胸元にあたる温かい吐息と共に彼女の「ごめんね」が私に届いた。
「ううん、私こそ…ごめんね」

なにに負けたくないと思っていたんだろう。
この人が相手なら負けっぱなしでもよかったじゃないか…

暗い部屋でクマのぬいぐるみがパソコンを見ている

◯月◯日
日記を書き直すことにしました。
ありがとう